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In PHONO#004, 2/2004.. テーリ・テムリッツはアメリカ人にも関わらず、一風変わった名前を持つ。フランス語で「地球」と「大地」を表す「テーリ」は普通女性につけられる名前だそうだし、姓の「テムリッツ」にも面白いルーツがある。かつてドイツとポーランドの間に「ポメラン」という国があって、その国特有の姓なのだそうだ。 彼は音楽家でありDJだが、名前同様作る音楽も変わっている。去年10周年を迎えた個人レーベル「コマトンズ」を中心にハウス、アヴァンギャルド、ジャズ、はたまたテクノ・ポップ等々。実に多様な名義で、独特の音楽を作る。 ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」のリミックスではまどろみのアンビエント、アルバム「愛の爆弾」では怒涛のノイズ、DJスプリンクルス名義ではハウス。だが、作る音楽のスタイルが変わっても、彼の音楽にははっきりとした「顔」がある。それはどの作品にも一貫している。儚くて、不穏でいて、ある部分は決して分からないというーー怪奇性である。 「今は川崎に住んでいます。もうすぐ3年になります。N.Y.に11年、その後サンフランシスコにも3年いた事があるんです」 テーリは美しい紺碧の瞳を持ち、ピンと上がった睫毛を持つ。 「日本を選んだ理由は幾つかあるんです。一つは単純、もうアメリカが嫌い(笑)。もう一つは自分の音楽におけるテーマがあるんだけど、エコノミック・クリティーク(資本主義批判)ね。ヨーロッパでは、アーティストはしばしば国から援助を受けます。日本にはそれがないから、テーマも発揮し易いんです。それに私はトランズジェンダーだけれども、日本では女装して歩いても好奇の目で見られる事が少ない。アメリカやヨーロッパではそうはいきませんよ。最初はドイツも考えたんです。ただね、ヨーロッパのギャラリー・カルチャーっていうのはどうしても好きになれなかった」 彼は続ける。 「ミネソタ生まれなんですけど、大学に行く為にN.Y.に出てきたんです。絵を勉強していましたね。‘86年だったかな。当時のハウスはまだ未分化な感じで刺激的でした。元々テクノ・ポップが好きだったんですけど、ハウスもそういう解釈で聴いていましたね。新しいテクノ・ポップなんだと」 デビューは‘93年。それは自身の「コマトンズ」からだったが、初期にはN.Y.の「インスティンクト」レーベルからアンビエント・アルバムも出している。それは聴いていて皮膚がヒリヒリするようなアンビエントだ。心地の良いトリップだけを追求する周囲から際立って、既に当時の音からは社会への批判意識。そういうものが迸っていた。 「私のアルバムには、いつでも長いテクストがあります。それは昔から変わらないんです。だから、アンビエントに取り組んでいた時は浮いていたかもしれないですね。皆はただただスペースド・アウトしたい。でも、私は音楽による社会への関わりを忘れたくないんです」 例えば一昨年にリリースされたアルバム「愛の爆弾」。ここに注がれたテーマを、彼は熱っぽくこう語るのだ。 「911があってから、音楽家が愛について語り始めました。でも、何か違うと思ったんです。愛ですべてが解決するかのような・・・そんな印象があったんです。考えてもみてください。テロリストにもテロに対する愛があったわけですよ。だからあのアルバムでは、社会の階層に散らばった愛について考えているんです」 テーリ・テムリッツは、本当に様々な顔を使い分けて音楽を作る。彼はそれを、「別々のキャラクターを使い分けた」ものだと言う。ある意味音楽を使ってロール・プレイをしているのかもしれない。そんな印象すらある。 「トランズジェンダーとは、性は女と男だけではなく、自分には他にも多様な性が存在すると言う意味なんです」 彼は自らが抱えるアイデンティティについてこう語るが、音楽もそういう多様性に似た、不確かな軌道を描く。だが、それは聴いていて何故かドキドキとしてしまう。一種の危うさを孕みつつ。
Deeperama @ 渋谷Module
Comatonse Recordings HP(必見。彼の多岐に渡る活動が見られる) |